八月の御所グラウンド

直木賞

「死んだはずの名投手とのプレーボール。戦争に断ち切られた青春——京都が生んだ、やさしい奇跡」
方向音痴の女子高校生が駅伝を走り、借金のカタに草野球をする大学生が亡霊と対峙する——。万城目さん待望の新刊は、16年ぶりに京都を舞台に若者たちを描く愉快で不思議で少し切ない中編集です。第170回直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』をAudibleで高坂篤志さんの溌剌とした朗読で聴くと、京都の風が頬を撫でて、いつの間にか涙がこぼれていた——そんな不思議で愛おしい体験が待っています 🎧⚾🏃

📚 本の基本情報

  • タイトル:八月の御所グラウンド
  • 著者:万城目学
  • 出版社:文藝春秋
  • 発売:2023年11月(単行本)
  • ナレーター:高坂篤志
  • ジャンル:小説/ファンタジー×青春×歴史(中編集・全2篇)
  • 主な受賞:第170回直木三十五賞受賞(2024年1月)
  • 個人評価:★★★★★(5.0 / 5.0)

本書について:「万城目ワールド」の集大成

本書は2つの中編小説からなる作品集です。どちらも舞台は京都。どちらにも「見えるはずのない過去が現れる」という万城目学さん特有の仕掛けが込められています。

京都という街には、見えないはずの過去の情景が
今もそこかしこに立ち現れている——

「ど真ん中なのに未知の変化をする青春小説。爽快に打ち取られて思わず拍手しました!」(脚本家・坂元裕二)
「まさか万城目学の小説で泣くことになるとは!」(書評家・永江朗)

そんな絶賛の言葉が並ぶ本書の2篇を、詳しく紹介します。

あらすじ:2つの「京都の奇跡」

第一篇「十二月の都大路上下(カケ)ル」

舞台は女子全国高校駅伝——毎年12月に京都・西京極を発着点として走る「都大路」です。

主人公はサカトゥー(坂東山鶴)、絶望的に方向音痴な女子高校生。陸上を始めてまだ日が浅く、全国大会にはほど遠い実力だった彼女が、ある事情からピンチランナーとして駅伝のメンバーに抜擢されてしまいます。

頼りになる先輩・荒垣さん、そして強豪校のライバル・咲桜莉との出会い。コースを間違えそうになるハプニングを繰り返しながらも、サカトゥーは懸命に都大路を駆け抜けます。そして——レースの終盤、彼女の前に見えるはずのない存在が現れる。それは何者なのか?

明るくコミカルに始まりながら、ラストに向かって静かに積み重なっていく感動。読み終えた後、京都の街の見え方が変わる第一篇です。

第二篇「八月の御所グラウンド」(表題作)

舞台は酷暑の京都・御所(京都御所)にある農学部グラウンド——「御所G(グラウンド)」。

主人公は大学生の多聞(たもん)。本来は彼女とバカンスのはずだった夏休みが、先輩に借りた多額の借金のカタとして、謎の草野球大会「たまひで杯」に参加させられる羽目に。

しかし、この「たまひで杯」が只者ではありませんでした。真夏の御所Gに集まってくる参加チームは、どこか様子がおかしい。ユニフォームが古い。雰囲気が独特。そして——多聞のチームの投手・朽木(くちき)は、驚異的な球を投げる。でも、彼は一体何者なのか?

試合が進むにつれ、真実が明らかになっていきます。かつて京都大学農学部のグラウンドで行われた「出征学徒壮行会」——戦争に赴く学生たちの、最後の野球。生きたかっただろうなという言葉と、五山の送り火の炎が、読者の心に深く刻まれます。

本書の見どころ

① 「笑い」から「感動」への完璧な転換

万城目さんの最大の魅力は、コミカルな入口から、予期しない深い感動へと読者を連れていく筆力です。方向音痴の駅伝ランナー、借金の罰として草野球——どちらも設定だけ見ればコメディ。でも読み進めると、いつの間にか泣いている。この落差の気持ちよさが「万城目ワールド」の真骨頂です。

② 京都という「時間が重なる場所」の使い方

本書の舞台である京都は、単なる背景ではありません。現在と過去が重なり合う場所として京都を選んだことで、二つの物語の「奇跡」が完璧に成立しています。御所のグラウンドに今も残る戦時の記憶、都大路に刻まれた無数のランナーの足跡——京都の地を知っている人にも、知らない人にも、等しく深く響く物語です。

③ 表題作に込められた「生きたかっただろうな」

表題作の核心は、戦争で青春を断ち切られた若者たちへの哀悼です。農学部グラウンドでの出征学徒壮行会を描き「生きたかっただろうな」の言葉で彼らの無念に想いを馳せ、五山の送り火で追悼したところが物語の核心。歴史の重みを、現代の大学生の草野球という軽やかな器に包んで届ける万城目さんの技巧には、ただ脱帽するしかありません。

著者・万城目学さんについて

『八月の御所グラウンド』を書いた万城目学(まきめ・まなぶ)さんは、「万城目ワールド」と呼ばれる独自の作風で日本のエンタメ文学を牽引する作家です。

万城目学さんのプロフィール

  • 生年月日:1976年2月27日
  • 出身地:大阪府
  • 学歴:清風南海中学校・高等学校卒業、京都大学法学部卒業
  • デビュー:2006年に第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー
  • 受賞:直木三十五賞(第170回・6度目の候補で受賞)

『鴨川ホルモー』『プリンセス・トヨトミ』などの、実在の事物や日常の中に奇想天外な非日常性を持ち込むファンタジー小説で知られ、作風は「万城目ワールド」と呼ばれる万城目さん。

京大よりも難易度が低い大学を志望していたが、自分よりも成績が悪い友人が京大を志望していたことから、釣られて志望したというエピソードが笑えます。その後、会社員を経て小説家へ転身という異色の経歴も持ちます。秋田県知事の鈴木健太やお笑い芸人のロザン・宇治原史規は大学の同級生という、京大の同窓関係も興味深い。

本作は直木賞を6回目の候補作で受賞という、長年の悲願達成でもありました。書き上げた時に「ちょっと今までと違う手応えがあった」と語っていた通り、万城目さん自身の自信作です。

万城目学さんの主な作品

  • 📖 『鴨川ホルモー』(2006年)— デビュー作・第4回ボイルドエッグズ新人賞・映画化
  • 📖 『鹿男あをによし』(2007年)— 直木賞候補・ドラマ化(綾瀬はるか主演)
  • 📖 『プリンセス・トヨトミ』(2009年)— 映画化(堤真一主演)
  • 📖 『とっぴんぱらりの風太郎』(2013年)— 直木賞候補
  • 📖 『パーマネント神喜劇』(2018年)
  • 📖 『八月の御所グラウンド』(2023年)— 第170回直木賞受賞

ナレーター・高坂篤志さんの朗読が「京都の空気」を運ぶ

Audible版『八月の御所グラウンド』を最高の体験にしているのが、ナレーターの高坂篤志(こうさか・あつし)さんです。

高坂篤志さんのプロフィール

  • 生年月日:1985年2月22日
  • 出身地:奈良県
  • 所属:AIR AGENCY
  • 職業:声優
  • 血液型:O型

両親が洋画の吹き替え版をよく観ていたため、幼い頃から声優という職業を認識していたという高坂さん。奈良県出身ということで、京都に隣接する関西の地の空気感も自然に体に染みているのかもしれません。

高坂篤志さんの主なアニメ出演作

  • 🎙 『シャングリラ・フロンティア』— ブランチ役
  • 🎙 『魔女と野獣』— シュルク役
  • 🎙 『くまクマ熊ベアーぱーんち!』— グラン役
  • 🎙 『ヘタリア』シリーズ— プロイセン役
  • 🎙 ゲーム『アサシンクリード ミラージュ』— フラッド役
  • 🎙 Audible朗読:『八月の御所グラウンド』ほか

アニメ・ゲームで幅広く活躍する高坂さんが、本作の朗読で見せるのは軽やかさとおかしみの中に、ふとした切なさが滲む表現力です。サカトゥーのドタバタした駅伝奮闘、多聞の困惑と驚き、そして——終盤に訪れる静かな感動の場面。それぞれのトーンを絶妙に演じ分けながら、万城目ワールド特有の「笑いの向こうにある泣き」を声で体現してくれます。

奈良県出身ということで関西のリズム感も自然で、京都を舞台にした物語の空気感と高坂さんの声は、聴いていてとても心地よくマッチしています。

Audibleで聴くときのポイント

  • 🎧 速度は1.0〜1.2倍がおすすめ(高坂さんのテンポ感を活かすため)
  • 🎧 2篇構成なので1篇ずつ区切って聴くのも◎
  • 🎧 第一篇→第二篇の順で聴くと、テーマの深まりが感じられる
  • 🎧 表題作のクライマックスは集中できる静かな時間帯に聴いてほしい
  • 🎧 万城目学作品が初めての方にも最初の1冊として最適

聴いた感想

① 「コメディ」で始まり、気づけば泣いている

第一篇を聴き始めた時は「方向音痴の駅伝選手って面白い設定!」と笑っていたのに、終盤に差し掛かるとなぜか涙が出てくる——。これが万城目マジックだと実感しました。笑いの温度から感動の温度へ、気づかないうちに連れて行かれるこの感覚は、他の作家にはなかなか出せないものです。

② 表題作の「朽木」に打ちのめされた

第二篇の投手・朽木が何者かを悟った瞬間の衝撃は、忘れられません。「生きたかっただろうな」という一言が、草野球というコミカルな設定の中から突然現れる——この落差と重みに、高坂さんの声が見事に寄り添ってくれます。聴いた後に、五山の送り火のことを思い浮かべてしまいました。

③ 「万城目ワールド」への完璧な入口

万城目学さんの本を初めて読む方に、これほどおすすめできる作品はありません。ファンタジーの入れ方が上品で、青春の描き方が爽快で、歴史への目線が優しい——万城目ワールドのすべての魅力が、この短い2篇に凝縮されています。

④ 京都への旅が観たくなる

聴き終えた後、京都御所に行きたくなりました。あの農学部グラウンドに立って、空を見上げたくなりました。本書を聴いてから訪ねると、きっと京都の見え方が変わる——そんな力が本書にはあります。

項目別の評価

項目 評価 コメント
ストーリー ★★★★★ 笑いから感動への転換が完璧
世界観・舞台 ★★★★★ 京都の魔力を余すことなく活用
テーマ性 ★★★★★ 戦争への静かな眼差しが心に刻まれる
朗読 ★★★★★ 高坂さんの軽快さと切なさが絶妙
余韻 ★★★★★ 五山の送り火が目に浮かぶ

🎯 こんな方におすすめ

  • ✓ 直木賞作品をチェックしたい方
  • ✓ 万城目学さんの作品を初めて読む方
  • ✓ 京都が好きな方・行ってみたい方
  • ✓ 「笑えて泣ける」作品が好きな方
  • ✓ 青春小説・スポーツ小説が好きな方
  • ✓ ファンタジーと現実が混じった不思議な物語が好きな方
  • ✓ 短時間(中編集)でじんわりした感動を味わいたい方
  • ✓ 戦争×日常をテーマにした作品に関心がある方

⚠ 注意したい方

  • ハードな歴史小説を期待すると拍子抜けするかも(あくまで「やさしい奇跡」の物語です)
  • 戦争のシーンは直接的には描かれませんが、テーマとして重なっています

まとめ|京都の「やさしい奇跡」を、耳で体験する

『八月の御所グラウンド』は、万城目学という唯一無二の作家が、6度目の挑戦でついかみ取った直木賞にふさわしい、「やさしい奇跡」の物語集でした。

「京都が生んだ、やさしい奇跡。じんわり優しく、少し切ない人生の愛しく、ほろ苦い味わいを綴る傑作2篇」——この紹介文に、偽りはひとつもありません。

高坂篤志さんの朗読は、コミカルな場面では軽やかに、感動の場面では深く静かに——万城目ワールドの温度変化を、声ひとつで完璧に体現してくれます。聴き終えた夏の夜、窓の向こうの空に、五山の送り火が見えるような気がする——そんな余韻が、長く長く残ります 🏔️🌕

🎧 Audibleで『八月の御所グラウンド』を聴く

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Audibleで聴いてみる

投稿日:2026年5月
— ひより —

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