『猿の戴冠式』あらすじと感想|芥川賞候補作の異色作をAudibleナレーター大森ゆきさんの朗読で聴く
著者:小砂川チト/ナレーター:大森ゆき/出版社:講談社(Audible版:Audible Studios)
こんにちは、ひよりです。今回ご紹介するのは、小砂川チトさんの『猿の戴冠式』。
第170回芥川龍之介賞候補作にもなった、種族を超えた魂の交歓を描く異色作です。
競歩選手の「しふみ」とボノボの「シネノ」、二つの視点が交錯する幻想的な物語に、休憩中に聴いていたつもりが、不思議な余韻に浸る時間が続きました。
ナレーターの大森ゆきさんの朗読とあわせて、じっくりレビューしていきます。
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猿の戴冠式
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『猿の戴冠式』のあらすじ
ある事件をきっかけに謹慎中の競歩選手・しふみは、テレビ画面の向こうに「おねえちゃん」の姿を見つけ、動植物園へと足を運びます。そこで出会ったのは、かつて霊長類の研究施設で言葉を機械(を使って)学習させられた過去を持つ、高い知能を持つ類人猿ボノボの「シネノ」でした。
手話や粗末なキーボードを介して交流を深めていく二人は、やがて言葉だけでは届かない「魂のシンクロ」とも呼べる深い結びつきを築いていきます。しかし二人の様子はSNSで話題となり、やがてシネノが仲間のボノボと共に動物園を脱走するというニュースが世間を騒がせることに——。「わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある」。孤独を抱えたしふみと、〈わたし〉という概念を知ってしまったシネノ、二つの視点を行き来しながら、種族を超えた連帯が描かれていきます。
著者・小砂川チトさんにとって2作目の作品となる本作は、第170回芥川龍之介賞候補作に選出。デビュー前から温めていたという「類人猿と人間が懇意になっていく」というアイデアが、幻想と現実が交錯する独創的な物語として結実しました。
ひよりの感想
正直に言うと、「機械学習させられた類人猿」というあらすじだけを読んだときは、AIを絡めたSF的な物語を想像していました。ですが実際に聴き始めると、テクノロジーの話というよりも、しふみとシネノそれぞれが抱える孤独と、他者から〈いい子〉〈わるい子〉と決めつけられることへの抵抗という、もっと根源的なテーマを描いた作品だとわかり、休憩中に聴いていたのに気づけば聴き入ってしまう瞬間が何度もありました。
正直、どこからどこまでがしふみの妄想なのか、はっきりと言い切れない部分も多い作品です。ですが、その掴みどころのなさこそが、しふみの不安定な内面をそのまま表現しているようにも感じられ、聴き終えたあとも「結局あれは何だったのだろう」と何度も反芻してしまう、そんな独特の読書体験でした。
しふみが競歩という自分の〈特別〉になれる才能を見つけながらも、勝利を目前にして怯えてしまう心理描写には、誰しも思い当たる節があるのではないでしょうか。「いい子のかんむりは、ヒトにもらうものでなく、自分でさずけるもの」という言葉が、聴き終えたあとも長く心に残る一冊でした。
ながら読書ポイント
144ページとコンパクトな一冊なので、休憩中や移動中でも聴き切りやすい長さです。現実と幻想の境界が曖昧になる構成のため、一度集中して聴くことでより深く物語の世界に浸れます。
著者・小砂川チトさんのプロフィール
| 生年 | 1990年生まれ |
| 出身 | 岩手県盛岡市 |
| 出身大学 | 慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科心理学専攻修了 |
| デビュー | 2022年「家庭用安心坑夫」で第65回群像新人文学賞を受賞しデビュー。同作は第167回芥川賞候補作にも選出 |
| 主な候補歴 | 第167回芥川賞候補(『家庭用安心坑夫』)/第170回芥川賞候補(『猿の戴冠式』) |
| 主な作品 | 『家庭用安心坑夫』『猿の戴冠式』 |
小砂川チトさんは、心理学を専門的に学んだ経歴を持つ岩手県出身の作家です。2022年に『家庭用安心坑夫』で群像新人文学賞を受賞してデビューすると、同作がいきなり芥川賞候補となり、2作目となる『猿の戴冠式』でも再び芥川賞候補に選出されるという、デビューから続けて注目を集めている書き手です。
小砂川さんはインタビューで、「子供の頃から、動物に信用されることに特別なあたたかさを感じていた」と語っており、類人猿と人間が心を通わせていく本作の着想は、デビュー前から温めていたものだといいます。人間存在の根源にある孤独やアイデンティティの揺らぎを、独自の幻想的な筆致で描き出す点が、小砂川さんならではの持ち味です。
ナレーター・大森ゆきさんのプロフィール
| 誕生日 | 1月12日 |
| 出身 | 山梨県 |
| 所属 | フリー(東京アナウンスアカデミー声優実践コース卒業。2024年12月までAIR AGENCY所属) |
| 趣味・特技 | 趣味は歌うこと、読書、キャッチボール/特技は歌うこと、料理、ブラインドタッチ |
大森ゆきさんは、ゲーム『オーバーウォッチ』のブリギッテ役や『Fallout 76』のアビー・ルッソ役など、幅広い作品で活躍する女性声優です。『ちはやふる3』などアニメ作品への出演のほか、Audibleでは本作のほかにも複数のオーディオブックのナレーションを手がけています。
本作のように、現実と幻想の境界が曖昧になっていく心理描写の多い作品において、しふみの揺れ動く内面と、シネノという異質な存在の心情、両方を丁寧に読み分ける表現力が求められます。読書を趣味に挙げる大森さんならではの、物語の呼吸を大切にした朗読が、本作の独特な世界観を丁寧に届けてくれます。
よくある質問
Q. 『猿の戴冠式』はどんな作品ですか?
謹慎中の競歩選手・しふみと、言葉を教えられた類人猿ボノボのシネノが、種族を超えた深い結びつきを築いていく小砂川チトさんの長編小説です。第170回芥川龍之介賞候補に選出されました。
Q. SFやAIをテーマにした作品ですか?
あらすじの「機械学習」という言葉からSF的な印象を受けるかもしれませんが、AI的な要素は登場しません。孤独やアイデンティティをめぐる、より内面的で幻想的な物語です。
Q. 「ながら読書」向きの作品ですか?
144ページとコンパクトな作品なので、休憩中や移動中でも聴き切りやすい長さです。じっくり味わいたい方は静かな環境で集中して聴くのもおすすめです。
Q. Audible版のナレーターは誰ですか?
声優の大森ゆきさんが朗読を担当しています。
まとめ
『猿の戴冠式』は、種族を超えた魂の交歓を通して、孤独とアイデンティティの根源を問いかける小砂川チトさんの芥川賞候補作。大森ゆきさんの丁寧な朗読が、しふみとシネノ、二つの視点が織りなす幻想的な世界を届けてくれます。ぜひ「ながら読書」で、その独特な余韻を味わってみてください。


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